国譲りの物語には、力比べを挑んで敗れる建御名方神と、国を譲ると答えて船を傾ける事代主神(ことしろぬしのかみ)が登場します。同じ大国主神の子でありながら、二柱の振る舞いは対照的です。後世にはえびす様と結びつき、漁業や商いの神としても親しまれました。

この記事の整理軸
01神の名前・読み方・別名

『古事記』では事代主神、またの名を八重事代主神(八重言代主神とも)と記されます。國學院大學の神名データベースによると、大国主神と神屋楯比売命(かむやたてひめのみこと)の子です。

02国を譲るか、と尋ねられる

高天原から建御雷神が出雲へ遣わされると、大国主神は自分だけでは決めず、子の事代主神に答えさせると告げました。事代主神は、御大(みほ)の岬で鳥を獲り、魚を釣っていたと語られます。

03船を傾け、身を隠す

承諾のあと、事代主神は乗っていた船を踏み傾け、天の逆手(あまのさかて)を打ち、青柴垣を作って、その中へ隠れます。天の逆手は、一般に呪術的な拍手の所作と読まれ…

04美保関に残る神事

島根県松江市美保関町の美保神社は、事代主神を祀る代表的な社です。島根県神社庁の案内によると、御祭神は三穂津姫命(みほつひめのみこと)と事代主神の二柱で、青柴…

01|まず知っておきたい3つのこと

  • 大国主神の子として、国譲りの返事を求められます。
  • 天つ神に国を譲ることを承知し、船を傾けて青柴垣(あおふしがき)に隠れます。
  • 後世、えびす信仰の一系統と結びつきますが、えびすは事代主神だけではありません。

02|神の名前・読み方・別名

『古事記』では事代主神、またの名を八重事代主神(八重言代主神とも)と記されます。國學院大學の神名データベースによると、大国主神と神屋楯比売命(かむやたてひめのみこと)の子です。

「事代」の意味は定まっていません。「コト」を言葉と結びつけ、神意を伝える神とみる説があります。「シロ」には、国譲りのしるしとする説、領域とする説、本物の代わりをつとめる者とする説などがあります。託宣だけにとどまらない神格と見る見方もあります。

03|国を譲るか、と尋ねられる

高天原から建御雷神が出雲へ遣わされると、大国主神は自分だけでは決めず、子の事代主神に答えさせると告げました。事代主神は、御大(みほ)の岬で鳥を獲り、魚を釣っていたと語られます。

呼び戻された事代主神は、父に「国を天つ神の御子に差し上げなさい」と答えます。父の判断をその場で覆したわけでも、武力で抵抗したわけでもありません。大きな転換に、一柱の神がはっきりと意向を示す場面です。

04|船を傾け、身を隠す

承諾のあと、事代主神は乗っていた船を踏み傾け、天の逆手(あまのさかて)を打ち、青柴垣を作って、その中へ隠れます。天の逆手は、一般に呪術的な拍手の所作と読まれています。青柴垣を神籬(ひもろぎ、神を迎える仮の祭場)と見る説もあり、姿を隠す動作が服従と退きの表れと解されることがあります。

長い別れの言葉ではなく、船と囲いを使った動作で姿を消す点が印象的です。

その後に建御名方神が現れ、建御雷神と力比べをして敗れます。同じ申し出に対し、兄弟は同意と抵抗という別々の態度を示しました。

05|美保関に残る神事

島根県松江市美保関町の美保神社は、事代主神を祀る代表的な社です。島根県神社庁の案内によると、御祭神は三穂津姫命(みほつひめのみこと)と事代主神の二柱で、青柴垣神事と諸手船神事が二大神事として伝わっています。

神事の具体的な進め方は、この記事では確認できていません。神話の船と地域の祭りがどう結びつくのかは、現在の祭礼が『古事記』の出来事をそのまま再現したものと決めつけず、長い時間の中で神話と土地の文化が重なってきたものとして見るのがよいでしょう。

06|ご利益・神徳

島根県神社庁の紹介では、美保神社の御神徳として五穀豊穣・子孫繁栄・海上安全・大漁満足・商売繁昌が挙げられています。これは現代の美保神社に伝わる信仰であり、国譲りの物語が直接語る事代主神の「能力」とは分けて考えます。

07|祀られている神社

美保神社(島根県松江市美保関町)のほか、國學院大學の神名データベースには、鴨都波八重事代主命神社、高市御県坐鴨事代主命神社などの名が挙がっています。長野県の諏訪大社下社(春宮・秋宮)では、八重事代主神が建御名方神とともに祀られています。

08|えびす様は一柱だけではない

事代主神は、後世に「えびす」として信仰される神の重要な一系統です。ただし、えびす信仰には蛭子神(ひるこのかみ)と結びつく系統もあります。「えびすはいつでも事代主神」と言い切ると、神社ごとの由緒を取り違えます。神話の神名、神社の祭神名、民間信仰上の呼び名は、分けて読んでください。

09|次に読む神々

  • 大国主神(おおくにぬしのかみ)――父にあたる神
  • 建御雷神(たけみかづちのかみ)――国譲りの使者
  • 建御名方神(たけみなかたのかみ)――国譲りで別の道を選んだ兄弟神

神々の一覧は日本の神々から探せます。

10|出典・参考資料