「縁結びの神様」と聞いて、大国主神(おおくにぬしのかみ)を思い浮かべる人は多いでしょう。ところが『古事記』を読むと、この神は何度も命を狙われ、恐ろしい試練をくぐり抜け、国造りを進めた末に、その国を譲ることになります。縁を結ぶ穏やかな姿は、長い物語の一面なのです。
國學院大學の神名データベースによれば、大国主神には大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)、葦原色許男神(あしはらしこをのかみ)、八千矛神(やちほこのかみ)、宇都志国…
大穴牟遅神(のちの大国主神)は、八十神(やそがみ)と呼ばれる兄弟たちに従者として同行し、大きな袋を背負わされて後ろを歩いていました。先を行く兄弟たちは、皮を…
大穴牟遅神は、須佐之男命のいる根の堅州国で、娘の須勢理毘売と出会います。しかし須佐之男命からは、蛇のいる室に寝かされるなど、次々と難題を課されます。
国造りは一柱だけで完結しません。小さな舟で現れた少名毘古那神(すくなびこなのかみ)と協力し、その神が去った後には、御諸山(みもろやま)に鎮まる神が関わります…
01|まず知っておきたい3つのこと
- 大国主神は、縁結びの信仰だけでなく、試練と国造りの物語を持つ神です。
- 須佐之男命は、『古事記』では六世の祖先にあたり、同時に妻の父として試練を課します。
- 国譲りでは、子どもたちの判断も大きな転機になります。
02|神の名前と別名
國學院大學の神名データベースによれば、大国主神には大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)、葦原色許男神(あしはらしこをのかみ)、八千矛神(やちほこのかみ)、宇都志国玉神(うつしくにたまのかみ)などの別名があります。ひとつの名しか持たない神として読むよりも、場面に応じて呼び名が変わる神として追いかけたほうが、筋が見えやすくなります。
須佐之男命との血縁にも注意が必要です。『古事記』の系譜では、大国主神は須佐之男命の六世の孫で、直接の息子ではありません。いっぽう妻の須勢理毘売(すせりびめ)は須佐之男命の娘なので、須佐之男命は祖先であり、義父でもあります。
03|因幡の素兎――荷物を持たされた神がしたこと
大穴牟遅神(のちの大国主神)は、八十神(やそがみ)と呼ばれる兄弟たちに従者として同行し、大きな袋を背負わされて後ろを歩いていました。先を行く兄弟たちは、皮を剝がれた兎に、海水を浴びて風に当たるよう教え、かえって苦しめます。
後から来た大穴牟遅神は事情を聞くと、真水で体を洗い、蒲(がま)の花粉を敷いてその上に寝るよう教えました。兎はその言葉に従って回復し、八上比売(やがみひめ)が妻に選ぶのは兄弟ではなくあなただと告げます。
兎を助けた優しさだけでなく、先に他者を傷つけた兄弟との違いが、ここで印象づけられます。なお、この話は神話の一場面で、現代の医療法として紹介するものではありません。
怒った八十神は、その後も大穴牟遅神を二度にわたって殺します。そのたびに母神の願いを受けた神々の力で生き返り、ついに木国を経て根の堅州国(ねのかたすくに)へ向かうことになります。
04|根の堅州国での試練
大穴牟遅神は、須佐之男命のいる根の堅州国で、娘の須勢理毘売と出会います。しかし須佐之男命からは、蛇のいる室に寝かされるなど、次々と難題を課されます。
須勢理毘売の助けを得ながら危機をしのぎ、最後は須佐之男命の宝である生太刀(いくたち)・生弓矢・天の詔琴(あめののりごと)を持って逃げ出します。追いかけた須佐之男命は、遠ざかる彼に向かって、その太刀と弓矢で兄弟たちを退け、「大国主神」となって国を治めよと告げるのです。この場面は、試練を課す存在が、のちに国造りへの背中を押すという、奇妙な転換を含んでいます。
05|国を造り、国を譲る
国造りは一柱だけで完結しません。小さな舟で現れた少名毘古那神(すくなびこなのかみ)と協力し、その神が去った後には、御諸山(みもろやま)に鎮まる神が関わります。この山の神は、のちの崇神天皇の段で大物主神として語られます。
やがて高天原から天照大御神の使者が派遣されますが、なかなか話がまとまりません。最終的に建御雷神(たけみかづちのかみ)が遣わされ、大国主神は子の事代主神(ことしろぬしのかみ)の意向を問います。いっぽう、もう一人の子の建御名方神(たけみなかたのかみ)は建御雷神に力比べを挑んで敗れます。国譲りは、大国主神が一騎打ちで負けたという単純な筋書きではありません。
大国主神は国を譲るにあたり、天つ神の御子が住むような壮大な宮を、自分のためにも建ててほしいと願います。出雲大社は、この国譲りののち、国造りを終えた大国主大神が目に見えない世界を司る神として祀られる由緒を伝えています。これは古典本文の要約とは区別して、同社の信仰・由緒として読む必要があります。
06|ご利益・神徳
出雲大社の公式説明における「縁結び」は、男女の結婚に限らず、人々を取り巻くさまざまなつながりを含むものとして語られています。人間関係、暮らしの幸せ、出会いを願う信仰が広がっているのは、そのためです。個別の願意は、参拝先の神社の説明に沿って確認してください。
07|祀られている神社
代表例は出雲大社(島根県出雲市)で、御祭神は大国主大神です。ほかにも大国主神との関係が語られる神社はありますが、大物主神との同一視や別神扱いには文献ごとの違いがあるため、すべてを無条件に同じ神として数えることはできません。
08|大黒天と大国主神は最初から同じ神?
七福神の大黒天と大国主神は、「だいこく」という音の通じやすさなどを通して、後世に結びつけられてきました。しかし、大黒天の来歴と『古事記』の大国主神は、同じところから始まったわけではありません。神仏習合としての重なりを知ると、現在の親しまれ方にも長い歴史があることが分かります。
09|次に読む神々
神々の一覧は日本の神々から探せます。
10|出典・参考資料
- 國學院大學『古事記』神名データベース「大国主神」 https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/okuninushinokami/
- 國學院大學『古事記』本文「稲羽の素兎」 https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/kojiki/稲羽の素兎/
- 出雲大社「出雲大社と大国主大神」 https://izumooyashiro.or.jp/about/ookami
- 出雲大社「出雲大社での縁結びとはどのような事ですか?」 https://izumooyashiro.or.jp/archives/faq/7880