日本の島々を生んだ神が、亡くなった妻を追って死者の世界へ行く。そして帰ってきたとき、太陽と月の神が生まれる。伊耶那岐神(いざなきのかみ)の物語は、国の始まりから死、生まれ直しまでを一続きに描いています。

この記事の整理軸
01神の名前と別名

『古事記』の伊耶那岐神は、伊耶那美神と対をなす男神です。國學院大學の神名データベースは、「伊耶那岐命」「伊耶那岐大神」などの別表記を挙げています。『日本書紀…

02天の沼矛と国生み

二柱は天つ神に命じられ、漂っていた国土を整える役目を負いました。天の浮橋に立って天の沼矛(あめのぬぼこ)で海をかき混ぜ、滴った塩から淤能碁呂島(おのごろじま…

03国生みから神生みへ

続いて二柱は、家屋、海、風、山、野などに関わる神々を生みます。自然の領域にさまざまな神名が与えられていることは、日本の神々が多い理由を考える入口にもなります。

04黄泉の国へ妻を迎えに行く

伊耶那岐神は伊耶那美神を連れ戻すため、黄泉の国へ向かいます。伊耶那美神は、すでに黄泉の食物を口にしてしまったと告げ、戻れるかどうかを黄泉の神に相談するあいだ…

01|まず知っておきたい3つのこと

  • 伊耶那美神とともに国土や多くの神を生みます。
  • 亡き妻を追って黄泉(よみ)の国へ向かい、帰還後に禊(みそぎ)を行います。
  • その禊から、天照大御神・月読命・須佐之男命の三貴子が生まれます。

02|神の名前と別名

『古事記』の伊耶那岐神は、伊耶那美神と対をなす男神です。國學院大學の神名データベースは、「伊耶那岐命」「伊耶那岐大神」などの別表記を挙げています。『日本書紀』には「伊奘諾尊」という表記があります。慣用的には「イザナギ」と濁って読まれることもありますが、『古事記』の読みは「いざなき」です。

03|天の沼矛と国生み

二柱は天つ神に命じられ、漂っていた国土を整える役目を負いました。天の浮橋に立って天の沼矛(あめのぬぼこ)で海をかき混ぜ、滴った塩から淤能碁呂島(おのごろじま)ができたと『古事記』は語ります。

島に降りた二柱は柱を巡って婚姻しますが、このとき女神のほうから先に声をかけたため、最初は望んだ形で子が生まれません。天つ神に教えを求め、手順をやり直したのち、大八島国(おおやしまぐに)が生まれます。

ここは「神様は最初から何でも知っていた」という物語ではありません。土地の成立が、試行錯誤と手順のやり直しを伴って描かれるのが興味深いところです。

04|国生みから神生みへ

続いて二柱は、家屋、海、風、山、野などに関わる神々を生みます。自然の領域にさまざまな神名が与えられていることは、日本の神々が多い理由を考える入口にもなります。

しかし火の神・火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)の誕生によって、伊耶那美神は大きな傷を負い、命を落とします。嘆きに暮れる伊耶那岐神は、火の神を斬ります。その際の刀の血や火の神の身体から、さらに多くの神々が生まれました。命の喪失が新たな神の出現につながる、厳しい場面です。

05|黄泉の国へ妻を迎えに行く

伊耶那岐神は伊耶那美神を連れ戻すため、黄泉の国へ向かいます。伊耶那美神は、すでに黄泉の食物を口にしてしまったと告げ、戻れるかどうかを黄泉の神に相談するあいだ、決して姿を見ないでほしいと頼みました。

けれど伊耶那岐神は待ちきれず、火を灯してその姿を見てしまいます。変わり果てた妻を恐れて逃げ出すと、辱められたと怒った伊耶那美神は追手を差し向けます。伊耶那岐神は、投げた桃の実で追手を退け、ついに黄泉比良坂(よもつひらさか)を大きな岩で塞ぎます。

岩を挟んだ二柱が交わすのは、「あなたの国の人を日に千人絞め殺そう」「ならば私は日に千五百の産屋を建てよう」という言葉です。死がある世界でも誕生が続く理由を語る場面として読めます。

06|禊から生まれた三貴子

黄泉から戻った伊耶那岐神は、穢れを洗い流すため、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原(あわきはら)で禊をします。持ち物や身体を洗う過程で神々が現れ、最後に左目から天照大御神、右目から月読命、鼻から須佐之男命が生まれます。伊耶那岐神は三柱に、それぞれ高天原、夜之食国(よるのおすくに)、海原を治めるよう命じます。

ここで大切なのは、『古事記』では三貴子を「伊耶那岐神の禊で生まれた神々」として描く点です。国生みをともにした伊耶那美神とのあいだに、同じ方法で生まれたという記述にはなっていません。『日本書紀』には異なる誕生の筋もあります。

07|ご利益・神徳と祀る神社

伊耶那岐神は国生み・神生みと禊に関わる神として知られます。代表的な神社は、滋賀県犬上郡多賀町の多賀大社で、伊邪那岐大神・伊邪那美大神の二柱を祀り、「お多賀さん」として親しまれています。國學院大學の神名データベースによれば、『古事記』も伊耶那岐神が淡海(おうみ)の多賀に鎮座すると伝えています。

神社では「伊邪那岐大神」と表記され、『古事記』の「伊耶那岐」とは字が異なります。ご利益は祀られている神社ごとの信仰ですので、参拝の前には神社の公式案内で確かめてください。

08|世界をつくった神は、なぜ黄泉から逃げるのか

国を生み出す力を持つ神でも、死者を思いのままに呼び戻せるわけではありません。伊耶那岐神は、黄泉で妻との隔たりに直面した後、禊によって新しい神々を生みます。神話の前後を並べると、作る・失う・洗い清めるという異なる行為が一柱の神に連なっていることが分かります。

09|次に読む神々

  • 伊耶那美神(いざなみのかみ)――国生みの相手で、黄泉の国の女神
  • 天照大御神(あまてらすおおみかみ)――左目から生まれた太陽の神
  • 月読命(つくよみのみこと)――右目から生まれた月の神
  • 須佐之男命(すさのおのみこと)――鼻から生まれた神

神々の一覧は日本の神々から探せます。

10|出典・参考資料