勝負の神、武道の神として知られる建御雷神(たけみかづちのかみ)。『古事記』を開くと、この神の大きな仕事は敵を倒すことよりも、地上の国を譲らせる交渉をまとめることでした。強い力を持つ神は、出雲の浜辺で何をしたのでしょうか。
『古事記』での正式な神名は建御雷之男神(たけみかづちのをのかみ)で、別名に建御雷神・建布都神・豊布都神があります(國學院大學の神名データベース)。『日本書紀…
伊耶那美神が火の神を産んで亡くなると、怒った伊耶那岐神は火の神の首を斬ります。刀の根もとについた血が岩(湯津石村)に走り、そこから三柱の神が生まれました。建…
天照大御神をはじめとする高天原の神々は、葦原中国を治める大国主神のもとへ使者を送りますが、話はなかなか進みません。そこで選ばれたのが建御雷神です。『古事記』…
大国主神は、子の事代主神(ことしろぬしのかみ)の返事を待つよう答えます。事代主神は国を譲ることに同意しました。もう一柱の子・建御名方神(たけみなかたのかみ)…
01|まず知っておきたい3つのこと
- 火の神を斬った刀の血から生まれた、刀剣と深く結びつく神です。
- 出雲の浜で剣を逆さに立ててその先に座り、大国主神に国譲りを迫ります。
- 『古事記』と『日本書紀』では、国譲りの使者の組み合わせが異なります。
02|神の名前と別名
『古事記』での正式な神名は建御雷之男神(たけみかづちのをのかみ)で、別名に建御雷神・建布都神・豊布都神があります(國學院大學の神名データベース)。『日本書紀』では「武甕槌神」「武甕雷神」と書かれます。鹿島神宮では「武甕槌大神」の表記で祀られています。
03|火の神を斬った刀から生まれる
伊耶那美神が火の神を産んで亡くなると、怒った伊耶那岐神は火の神の首を斬ります。刀の根もとについた血が岩(湯津石村)に走り、そこから三柱の神が生まれました。建御雷之男神は、その三番目の神です。刀の神である伊都之尾羽張神(いつのおはばりのかみ)の子ともされます。
雷を思わせる名ですが、誕生のしかたも、その後の働きも、剣と結びついています。
04|出雲の浜で、剣の先に座る
天照大御神をはじめとする高天原の神々は、葦原中国を治める大国主神のもとへ使者を送りますが、話はなかなか進みません。そこで選ばれたのが建御雷神です。『古事記』では天鳥船神(あめのとりふねのかみ)とともに、出雲の伊耶佐(いざさ)の小浜に降り立ちました。
建御雷神は十掬剣(とつかのつるぎ)を抜いて逆さに波の上へ立て、その剣の先にあぐらをかいて座り、大国主神に国を譲るかどうかを問います。剣の威圧と、言葉による交渉が重なる場面です。
05|子らの返事と、力比べ
大国主神は、子の事代主神(ことしろぬしのかみ)の返事を待つよう答えます。事代主神は国を譲ることに同意しました。もう一柱の子・建御名方神(たけみなかたのかみ)は反対して力比べを挑み、建御雷神に敗れて信濃の諏訪まで逃げ、降伏します。そののち大国主神も国を譲ることを認めました。
建御雷神は、事代主神・建御名方神・大国主神を次々に従わせます。戦いはありますが、物語全体は、問いかけ、同意、抵抗、再び交渉という流れで結論に至ります。
06|神武天皇を助けた剣
神武天皇が東へ向かう途中、熊野で危機に陥ったとき、土地の人・高倉下(たかくらじ)の夢に建御雷神が現れます。建御雷神は自分の代わりに横刀(佐士布都神)を地上に降ろし、その剣が神武天皇の一行を助けました。自分が降りるのではなく、剣を託す。国譲りとは違う関わり方です。
07|『日本書紀』では、使者の組み合わせが違う
國學院大學の神名データベースによると、『日本書紀』の九段本書では、建御雷神にあたる武甕槌神は、経津主神(ふつぬしのかみ)に従って葦原中国へ派遣される神として描かれます。いっぽう『古事記』には経津主神が登場しません。両者の関係には諸説があるため、同じ神として一つにまとめず、書物ごとの組み合わせで読み分けるのが安全です。
08|祀られている神社と信仰
代表的な神社は鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)で、御祭神は武甕槌大神です。公式の由緒は、天照大御神の命を受けて経津主大神とともに出雲へ降り、国譲りの交渉を成就させた神と伝えます。創建は神武天皇の御代にさかのぼるとされ、東征の窮地を救った韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)の神威への感謝から、大神をこの地に祀ったと伝わります。
中世から近世にかけては、源頼朝や徳川家康ら武将の尊崇を集め、武神として仰がれてきました。勝負や武道、困難に向かう力を願う信仰につながっています。
09|次に読む神々
- 大国主神(おおくにぬしのかみ)――国譲りの相手
- 伊耶那岐神(いざなぎのかみ)――火の神を斬った刀の持ち主
- 伊耶那美神(いざなみのかみ)――火の神の母
- 大物主神(おおものぬしのかみ)――国造りに関わる三輪山の神
- 天照大御神(あまてらすおおみかみ)――国譲りを求めた高天原の側
神々の一覧は日本の神々から探せます。
10|出典・参考資料
- 國學院大學『古事記』神名データベース「建御雷之男神」 https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/takemikazuchinoonokami/
- 國學院大學『古事記』本文「葦原中国平定⑤」 https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/kojiki/葦原中国平定⑤/
- 鹿島神宮「御由緒・御祭神」 https://kashimajingu.jp/about/御由緒・御祭神/