社員6人のスタートアップが、巨大SNSに追われた日

2012年、Snapchatは社員6人の小さな会社でした。そこへ、Mark Zuckerbergとの会談を経たFacebookが、消える写真共有アプリ「Poke」を投入します。世界最大級のSNSが、同じ仕組みのアプリを自社の配信力に乗せてきた局面です。

このとき共同創業者のEvan SpiegelとBobby Murphyがとった行動のひとつが、社員それぞれに孫子『The Art of War』を注文することでした。ForbesによるSpiegelへの取材で伝えられている話です。

証拠強度はBと見ています。経営者本人への取材に基づく具体的な行動は確認できますが、Snap Inc.が孫子を公式な経営原則として採用したところまでは確認できないためです。

「読んだから勝った」とは言えない

その後Pokeは伸び悩み、Snapchatは成長を続けました。ただし、孫子を読んだからPokeに勝った、という因果関係を示す資料はありません。

Rayne-Labでは、孫子を共有したという確認できる事実と、その後の競争結果を切り離して扱います。逆境で古典を配った創業者の逸話は印象に残りますが、それを成功法則として受け取ると、事例の読み方を誤ります。ここで参考になるのは結果ではなく、置かれた状況と選んだ戦い方の関係です。

虚実篇と並べて読む――同じ土俵に乗らない

ここからはRayne-Labによる比較分析です。巨大な既存SNSと同じ土俵で規模を競うのではなく、消える写真という異なる利用体験を磨いたSnapchatの戦い方は、第六篇・虚実篇の「相手が強い正面を避け、主導権を作る」という観点と比較できます。

相手の配信力と真正面からぶつかれば、ユーザー数でも広告費でも勝ち目はありません。自分たちが有利になる条件を選び、そこへ相手を引き込めるかどうかが問われます。ただし、Spiegel本人が「虚実篇をこのように適用した」と説明した一次資料は確認できないため、原典との接続はあくまで比較として扱います。

謀攻篇の基準で見ると、勝利条件が変わる

第三篇・謀攻篇も、単純な正面衝突を最上とはしません。この視点に立つと、SnapchatはFacebookそのものを倒す必要はなかったことになります。自社サービスが独立して生き残り、成長できる位置を確保できれば目的は果たせるからです。

現代の競争を考えるうえで、この置き換えは使い道があります。目的が「相手に勝つこと」なのか「自分たちが続けられる場所を作ること」なのかで、打つべき手はまったく変わります。資源の少ない側ほど、この区別が生死を分けます。

小さな組織が使える問い

自社より大きな相手と競っているなら、相手を倒す方法の前に確認したいことがあります。相手が最も強いのはどの条件か。その条件を避けたまま、顧客に選ばれる理由を作れないか。相手が真似しにくいのは、機能ではなく何か。

こうした問いは、古典を読まなくても立てられます。ただ、孫子のように「戦い方の選択肢は正面衝突だけではない」と繰り返す文章を手元に置くことで、追われている最中でも考え続けやすくなります。Spiegelらが本を配った意味を、そのあたりに読むことはできそうです。

出典・確認先

  • ForbesによるEvan Spiegel取材(Facebook/Poke対抗局面と社員6人への『The Art of War』注文の記述)
  • Simon & Schuster『Art of War』公式出版社ページ

※虚実篇・謀攻篇との接続は、Rayne-Labによる現代的な比較分析です。