サイトを作る前に、何を知っておくべきか

Webサイトのリニューアルは、デザインや機能の話から始まりがちです。ところが公開してみると、誰に何を伝えたかったのかが曖昧なまま、ページだけが増えていたと気づくことがあります。作る前に決めておくべきことが、作る作業に押し流されてしまうからです。

Web制作会社のミツエーリンクスは、この「作る前の問い」を『孫子』に重ねて説明した公式コラムを公開しています。企業事例として取り上げる意味があるのは、後から第三者が孫子に当てはめたのではなく、会社自身が公の場で接続を語っているからです。

公式コラムで語られていること

同社は代表取締役名義の公式コラム「Webサイト構築、孫子の兵法から試みる戦略的アプローチ(企業経営層向け)」で、孫子をWebサイト構築と企業コミュニケーションへ明示的に応用しています。手掛かりになっているのは「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という考え方です。

コラムでは、自社と外部環境を理解したうえでWebサイトを構築する、という戦略的なアプローチが経営層に向けて論じられています。ページを制作すること自体ではなく、「誰に」「何を」「なぜ伝えるのか」を経営の側から考える点に特徴があります。

証拠の強さで言えばA、ただし範囲は限定されます。企業の公式媒体で明示的な応用を確認できる一方、会社の経営全般が孫子を公式な経営原則に据えている、という意味ではありません。あくまでWeb戦略への応用事例としてのA判定です。

「彼を知り己を知れば」はどの篇の言葉か

この一節は、『孫子』第三篇・謀攻篇の有名な部分です。相手と自分の条件を把握しないまま施策だけを走らせることへの警戒として読むことができます。原典の文脈は謀攻篇の解説で詳しく扱っています。

ミツエーリンクスの公式記事は、この原理を企業のWebコミュニケーションへ直接持ち込んだ事例にあたります。自社の強みだけを並べたサイトでも、市場調査の結果を並べただけのサイトでも足りない、という指摘として読めます。

始計篇と重ねて読むと見えること

ここからはRayne-Labによる比較です。Web施策の前に自社・市場・利用者・目的を観察するという順序は、始計篇の「実行前に条件を比較する」という構造とも相性があります。ただし、公式記事が始計篇を個別に実装したと断定するものではありません。

読み手として使えるのは、この重ね方そのものよりも順序の確認です。サイトの目的、届けたい相手、社内で共有されている前提、競合との位置関係。これらを言葉にしないまま制作に入ると、公開後の議論が「デザインの好み」に寄っていきます。

なぜこの事例が参考になるのか

孫子のビジネス応用は、競合を「敵」と呼び替えるだけで終わってしまうことがあります。この事例が違うのは、まず相手と自分を知るという古典の認識論を、Webサイトという現代的な企業活動へ具体的に翻訳している点です。

自社サイトを見直すときにも、同じ問いがそのまま使えます。今のサイトは誰の課題を解こうとしているのか、その人は他にどんな選択肢を持っているのか、自社が本当に語れることは何か。答えが出そろってからページ構成を考えても、遅くはありません。

出典・確認先

  • 株式会社ミツエーリンクス公式コラム「Webサイト構築、孫子の兵法から試みる戦略的アプローチ(企業経営層向け)」、2003年8月1日

※A判定は、Web戦略への明示的な応用について述べたものです。会社全体の経営思想にまで広げた評価ではありません。