賀茂光栄(かものみつよし、939–1015)は、平安時代中期の陰陽師です。賀茂保憲(かものやすのり)の子にあたり、父から暦道(れきどう)を学びました。賀茂氏が暦の学問を家の知識として受け継いでいく流れを考えるとき、必ず名前が挙がる人物です。

安倍晴明ほどの知名度はありませんが、当時の朝廷で暦を扱った専門家として、晴明と並ぶ存在でした。ここでは官歴、暦道という職掌の中身、そして晴明との関係の読み方を順に見ていきます。

この記事の整理軸
01官歴からたどる光栄

講談社デジタル版『日本人名大辞典+Plus』によれば、光栄は権暦博士(ごんのれきはかせ)・暦博士・大炊頭(おおいのかみ)などを歴任しました。長和2年(101…

02暦道とは何をする仕事か

暦道は、暦の計算・作成・運用にかかわる専門分野です。今のカレンダー制作よりもずっと範囲が広く、朔望(さくぼう、新月と満月)、節気、日月食の計算など、国家の時…

03「賀茂は暦、安倍は天文」は絶対の決まりか

後世の陰陽道史では、賀茂氏が暦道を、安倍氏が天文道を中心に継承したと説明されます。家学化の大きな傾向をつかむには便利な整理です。

04安倍晴明との関係をどう見るか

『日本人名大辞典+Plus』では、光栄は天文道を学んだ安倍晴明と並ぶ有力な陰陽師として紹介されています。しかし、そこから現代の創作に見られるような宿命のライ…

05家学化という視点

賀茂忠行(かものただゆき)、賀茂保憲、賀茂光栄という三代の系譜は、陰陽寮の専門知が官司のなかの個人技能にとどまらず、家の知識として受け継がれていく過程を考える手がかりになります。

01|官歴からたどる光栄

講談社デジタル版『日本人名大辞典+Plus』によれば、光栄は権暦博士(ごんのれきはかせ)・暦博士・大炊頭(おおいのかみ)などを歴任しました。長和2年(1013)に右京権大夫(うきょうごんのだいぶ)となり、長和4年(1015)6月7日に没したとされます。

こうして官職を並べてみると、「陰陽師」というひとくくりの呼び方では光栄の姿が見えにくくなることがわかります。人物像の中心に置くべきなのは、暦を扱う専門官人としての経歴のほうです。呪術者のイメージから入ると、かえって実像から遠ざかってしまいます。

02|暦道とは何をする仕事か

暦道は、暦の計算・作成・運用にかかわる専門分野です。今のカレンダー制作よりもずっと範囲が広く、朔望(さくぼう、新月と満月)、節気、日月食の計算など、国家の時間の秩序を支える知識と結びついていました。

暦に添えて、生活のうえでの吉凶が語られることもありました。とはいえ、暦博士がすべての吉凶判断を一手に決めていたわけではありません。天文道や陰陽道といった周りの職掌がそれぞれ役割を持っており、暦道はそのひとつだったと押さえておくと、混同を避けられます。

03|「賀茂は暦、安倍は天文」は絶対の決まりか

後世の陰陽道史では、賀茂氏が暦道を、安倍氏が天文道を中心に継承したと説明されます。家学化の大きな傾向をつかむには便利な整理です。

ただ、この図式をすべての時期・すべての人物へ機械的に当てはめると、無理が出ます。光栄という人物を知りたいのであれば、まず本人の官歴と暦道への関わりを確かめ、そのうえで家系全体の傾向へ話を広げる。この順番で読むと、例外に出会ったときにも戸惑わずにすみます。

「賀茂氏=暦、安倍氏=天文」は家学化の傾向として読む

歴史を理解する便利な整理ですが、全時代・全人物へ機械的に当てはめる固定規則にはしません。

賀茂氏暦道を中心とする継承

光栄本人の官歴と暦道への関与を確認してから家系全体の傾向へ広げます。

安倍氏天文道を中心とする継承

後世の家学化の傾向として捉え、時代ごとの実務と官職を個別に確認します。

04|安倍晴明との関係をどう見るか

『日本人名大辞典+Plus』では、光栄は天文道を学んだ安倍晴明と並ぶ有力な陰陽師として紹介されています。しかし、そこから現代の創作に見られるような宿命のライバル関係を、そのまま史実として取り出すことはできません。

同じ時代に有力な専門家が二人いたということと、個人的な対立劇が史料で確認できるということは、まったく別の話です。交流があったのか、競い合ったのか、役割を分担していたのか。それは個々の史料にあたって確かめるべき事柄で、物語の印象から逆算してはいけません。

05|家学化という視点

賀茂忠行(かものただゆき)、賀茂保憲、賀茂光栄という三代の系譜は、陰陽寮の専門知が官司のなかの個人技能にとどまらず、家の知識として受け継がれていく過程を考える手がかりになります。

もっとも、賀茂保憲の記事でも触れているとおり、ある一日に暦道と天文道がきっぱり分割されたという制度変更があったわけではありません。長い時間をかけて進んだ家学化として読むのが妥当です。

06|光栄を調べるときの手がかり

光栄について知りたいときは、人名辞典で官歴を押さえ、そこから暦道という職掌の解説へ進むのが効率のよい道筋です。父の保憲、祖父にあたる忠行とあわせて三代を並べて見ると、一族が何を専門としてきたかがはっきりします。創作に描かれた晴明との関係から入ると遠回りになるので、官職の側から近づいてみてください。

07|参考資料

※賀茂氏は暦、安倍氏は天文という整理は歴史的な傾向として紹介しており、すべての時代・すべての人物へ例外なく当てはまる決まりとしては扱っていません。