漫画やゲームで、陰陽師が独特の足取りで地面を踏み、そこから術が発動する。あの場面のもとになったとされるのが反閇(へんばい)です。中世の陰陽道で行われた呪術的な儀礼のひとつを指します。

特徴的な足運びで知られる反閇ですが、ただのステップではありません。歩き方、唱え言葉、方位の扱いを組み合わせた、ひとまとまりの作法として伝えられてきました。ここでは史料から確かめられる反閇の姿を追っていきます。

この記事の整理軸
01禹歩と反閇はイコールではない

反閇は、中国から伝わった禹歩(うほ)と関係があります。ただし研究のうえでは、「禹歩がそのまま反閇である」と言い切るより、禹歩が反閇を構成する要素・背景のひと…

02何のために行われたのか

反閇は、旅立ちや外出の際の安全祈願だけに限られるものではありませんでした。研究では、競(くら)べ馬や相撲といった、勝負にかかわる場面でも用いられたことが指摘されています。

03現代の創作で描かれる反閇

現代の作品では、地面を踏むことで結界や術式が発動する表現として描かれることがあります。反閇の歩法のイメージを取り入れた演出としては、よくできた発想でしょう。

04似た歩法と混同しないために

道教、修験(しゅげん)、密教などにも、歩法や方位を扱う儀礼があります。互いに交流や影響の関係はありますが、動作が似ているからといって同じ術法だとはかぎりません。

05反閇をもっと知りたいときは

反閇は、歩行と呪(じゅ)、方位の扱いを組み合わせた陰陽道の儀礼です。禹歩とのつながりを持ちながら、日本の陰陽道の実践のなかで独自に運用されてきました。

01|禹歩と反閇はイコールではない

反閇は、中国から伝わった禹歩(うほ)と関係があります。ただし研究のうえでは、「禹歩がそのまま反閇である」と言い切るより、禹歩が反閇を構成する要素・背景のひとつとして取り込まれた、と見るほうが無理がありません。

中国の方術にあった歩法が、日本へそっくり保存されたわけではない、ということです。日本の陰陽道の儀礼のなかで組み替えられ、別のかたちになった。そう考えると、両者の共通点と相違点の両方が説明できます。

禹歩と反閇は関係しても、完全な同義語ではない

中国由来の歩法がそのまま保存されたとせず、日本の陰陽道儀礼の中でどう取り込まれ再構成されたかを見ます。

中国方術の背景禹歩

中国由来の歩法で、反閇の構成要素・背景の一つとして関係します。

日本の陰陽道儀礼反閇

歩行・呪・方位操作などを組み合わせ、日本側の儀礼の中で運用されました。

02|史料はどこまで教えてくれるか

平安後期以降の作法書や、土御門家(つちみかどけ)など陰陽道の家に伝わった反閇関係の資料からは、足の運び方、方位、唱え言葉を組み合わせた具体的な作法をたどることができます。

国立歴史民俗博物館が紹介する「反閇作法」や、若杉家文書に残る反閇関係の資料は、後世の創作イメージではなく、実際に行われた陰陽道の作法を確認するための貴重な手がかりです。動作の断片だけでなく、どんな順序で何を唱えるかまで書き残されている点が重要です。

03|何のために行われたのか

反閇は、旅立ちや外出の際の安全祈願だけに限られるものではありませんでした。研究では、競(くら)べ馬や相撲といった、勝負にかかわる場面でも用いられたことが指摘されています。

ですから「結界を張る技」というひと言では、この儀礼の輪郭をとらえきれません。行動を始める前に、安全、勝負の行方、方位の問題へまとめて対処する儀礼。そう理解したほうが、史料に残る用例としっくり合います。

04|現代の創作で描かれる反閇

現代の作品では、地面を踏むことで結界や術式が発動する表現として描かれることがあります。反閇の歩法のイメージを取り入れた演出としては、よくできた発想でしょう。

とはいえ、史料に残る反閇を、そのまま特殊能力の発動モーションとして説明することはできません。作品で見た動作を調べようとするときは、それが演出なのか、史料にある作法なのかを分けて探すと、目的の資料にたどり着きやすくなります。

05|似た歩法と混同しないために

道教、修験(しゅげん)、密教などにも、歩法や方位を扱う儀礼があります。互いに交流や影響の関係はありますが、動作が似ているからといって同じ術法だとはかぎりません。

資料を読むときは、どの時代の、どの伝承の、どの典籍に載っている作法なのかを必ず確かめてください。この一手間を省くと、別系統の儀礼を混ぜて覚えてしまいます。

06|反閇をもっと知りたいときは

反閇は、歩行と呪(じゅ)、方位の扱いを組み合わせた陰陽道の儀礼です。禹歩とのつながりを持ちながら、日本の陰陽道の実践のなかで独自に運用されてきました。

「地面を踏んで結界を張る術」とだけ覚えてしまうと、そこから先へ進めません。調べを深めたい方は、まず国立歴史民俗博物館の「反閇作法」の解説にあたり、続いて若杉家文書をめぐる研究へ進むのがおすすめです。作法・用途・時代による違いという三つの軸で読むと、断片的な記述もつながって見えてきます。

07|参考資料