陰陽師というと安倍晴明の名がまず浮かびますが、晴明が生まれる前から陰陽寮には専門の官人たちがいました。弓削是雄(ゆげのこれお、生没年不詳)も、そのひとりです。
是雄は平安時代前期に活動し、陰陽寮の長である陰陽頭(おんみょうのかみ)にまで進みました。晴明より前の世代にこうした人物がいたことを知ると、陰陽師という職の輪郭がずいぶん変わって見えてきます。
講談社デジタル版『日本人名大辞典+Plus』では、是雄は播磨(はりま)の人で、陰陽権助(おんみょうのごんのすけ)などを経て、仁和元年(885)に陰陽頭となったとされています。
是雄の時代にも、陰陽寮には占筮(せんぜい)、方位、暦、天文に関わる専門の官人がいました。陰陽師という職が安倍晴明から始まったわけではないことは、この一点からも分かります。
人名辞典では、是雄は占いに定評があった人物として紹介されています。さらに後世の『今昔物語集』には、是雄と占夢(せんむ)を結びつける説話が残されています。
滋岳川人(しげおかのかわひと)と弓削是雄は、晴明以前の陰陽道史を説明するときに並べて挙げられることがあります。同じ時期に活躍した専門家として、対にして語りやすいからです。
是雄について詳しく知りたいときは、資料を次の順に並べて読むと混乱しません。
01|官歴からたどる是雄
講談社デジタル版『日本人名大辞典+Plus』では、是雄は播磨(はりま)の人で、陰陽権助(おんみょうのごんのすけ)などを経て、仁和元年(885)に陰陽頭となったとされています。
この任官は『日本三代実録』仁和元年4月27日条にも見え、従五位下行陰陽権助の弓削宿禰是雄を陰陽頭に任じたと記されています。人物辞典の要約だけで終わらず、官職の任命を同時代の編年史料までさかのぼって確かめられる点は、平安前期の人物としては貴重です。
02|晴明より前の陰陽師の姿
是雄の時代にも、陰陽寮には占筮(せんぜい)、方位、暦、天文に関わる専門の官人がいました。陰陽師という職が安倍晴明から始まったわけではないことは、この一点からも分かります。
この時代の陰陽師は、後世の創作が描く怪異退治の術者というより、国家の制度の中で専門知識を扱う官人でした。役所の職員として暦を作り、天文を観測し、吉凶を勘申する。そうした日常の仕事の積み重ねが、彼らの本来の姿です。
03|「占いに優れた人」という評価をどう読むか
人名辞典では、是雄は占いに定評があった人物として紹介されています。さらに後世の『今昔物語集』には、是雄と占夢(せんむ)を結びつける説話が残されています。
ここで分けておきたいのが、同時代の史料で確かめられる官歴と、後世の説話が描く占術の名人像です。説話が文化史の資料として重要であることと、そこに描かれた場面が同時代の事実であることは、別の話になります。名人としての評判がどの時代に語られたものかを意識して読んでみてください。
占術の名人という評価だけでなく、同時代史料で陰陽頭任官を確認できる官人として出発します。
陰陽頭への任官など、同時代に近い記録を先に確認します。
晴明以前にも専門官人がいたことを制度史から見ます。
名人評価や具体的逸話を官歴とは別の証拠層に置きます。
怪異退治者の像を平安前期の官人へそのまま重ねません。
04|滋岳川人と並べて語られるとき
滋岳川人(しげおかのかわひと)と弓削是雄は、晴明以前の陰陽道史を説明するときに並べて挙げられることがあります。同じ時期に活躍した専門家として、対にして語りやすいからです。
ただし、二人をひとつの師弟物語や同じ流派にまとめてしまうと、実像から離れていきます。川人には著作や式盤(しきばん)の伝承があり、是雄には陰陽頭任官を伝える編年史料と後世の占夢説話がある。同じ「名人」という後世の評価でも、残された資料の種類はまったく違うのです。
05|是雄を調べるときの順番
是雄について詳しく知りたいときは、資料を次の順に並べて読むと混乱しません。
- 『日本三代実録』などで確認できる官歴
- 陰陽寮という組織の中での位置づけ
- 人物辞典や後世説話が伝える名人としての評価
- 現代に広まっている陰陽師のイメージ
上の段ほど同時代に近く、下へ行くほど後の時代の解釈が重なります。この順番を意識するだけで、どこまでが史料で確かめられる話なのかが自分で見分けられるようになります。まずは『日本三代実録』の一条から、当時の陰陽寮をのぞいてみてください。
06|参考資料
- 『日本三代実録』仁和元年4月27日条
- 講談社デジタル版『日本人名大辞典+Plus』「弓削是雄」
- 善養寺淳一「『今昔物語集』の異界構造に関する基盤的考察(2)――陰陽師天文博士弓削是雄の占夢術と夢の異界性」『鴨臺國文斅』5号、2025年
※官歴と後世の占術説話は、同じ確かさの資料として扱っていません。個々の占術の逸話については、典拠を確かめたうえでお読みください。